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地方政治への参画めざす無党派市民


大阪市政研究 2003年夏号 (大阪市政調査会 2003年8月発行) 

特集/地方政治の地殻変動

巻頭言 地方政治への参画めざす無党派市民

松本 誠 
市民まちづくり研究所所長 
自治・分権ジャーナリスト関西の会事務局

 いきなり私事で恐縮だが、私は今年二月末、三十六年間勤めた神戸新聞社を退職して、四月に行われた兵庫県の明石市長選挙に立候補した。明石では二年前、市民夏まつりの花火大会で"群衆なだれ"が起こり、観客十一人が犠牲となり、その五ヵ月後には同じ人工海岸で砂浜が陥没し、女児の命が奪われている。当時の市長は、事故の責任を問われながらもなかなか辞めようとせず、任期満了まであと4ヵ月という段階になって、ようやく辞任を表明。四月の統一地方選で、市長と市議を同時に選ぶことになった。

 根っからの明石市民である私は、新聞社の仕事の傍ら十五年前から商店主や市民活動家らとともに「明石まちづくり研究所」という勉強会を開いてきた。花火大会事件は単なる事故ではなく、明石市政が抱える諸問題の帰結だと考え、市長選にあたって「市民の市長をつくる会」を結成して、安全・安心のまちづくりを推進する市民派の市長を擁立しようとした。候補者選考の結果、私自身が候補者に選ばれ、四人の新人候補の一人として選挙戦に挑んだが、残念ながら次点に終わった。当選したのは、六党の相乗り推薦を受けた、三十七歳の現職二世県議だった。
選挙にあたっては、無党派を貫き、完全な市民派の選挙をめざした。

 一つは、会の名称通り「出たい人」より「出したい人」を市民の手で擁立したことである。二つ目には、政党や団体と一切の政策協定を結ばず、政党の推薦・支持を受けない、無党派市民主義の選挙を貫いた。二元代表制の地方自治体の首長選挙では、中央政党に頼らず、有権者個人を基礎とした選挙にすべきだという信念に基づく選択だった。三つ目は、選挙戦自体を「市民の市政参画への道筋」と捉え、「進化する政策」を掲げて政策提案を広く求めるなど、プロセスを重視したことである。

 90年代後半以降、国政の混迷状況を尻目に、地方政治の地殻変動は目覚しいものがある。脱政党の動きに加えて、市民が多彩な市民活動を展開しつつ、地方政治に深く関わるようになっている。地方分権の流れは、情報公開とあいまって「自分たちの地域課題は自分たちで解決する」という住民自治の気風を確実に高めている。

 住民・市民の地方政治へのかかわり方として、これまでも市民の立場からの「参画・協働」を進めようとする活動があった。これに加えて近年は、首長や議員の選挙に積極的にかかわり、自分たちの代表を政治の前線に送り込もうという動きが盛んになっている。行政マンや古いタイプの政治家に委ねるのはやめよう、という全国的な潮流だ。地方議員や首長の選挙で無党派の市民派が続々と誕生し、自治体に新しい風を吹き込んでいる。

 こうした動きの特徴は三つある。
 一つは、党派を問わず「脱政党」の傾向が強いことである。ここでいう「脱政党」とは、国政選挙における「無党派層」(政党支持なし層)の増大と同じではない。地方政治、とりわけ首長選挙に中央政党が介入するのを否定するという積極的な意味合いを持っている。二元代表制の首長選挙の長所を生かそうとするもので、議会の"与党志向"や首長と議会との馴れ合いの結果である"政党相乗り志向"との対極にある。

 二つ目は、若い候補者の躍進ぶりである。従来、若さは「経験不足」と否定的に捕らえられがちだったが、今は「しがらみのない立場で思い切った活動ができる世代」として有権者に期待されているのだろうか。手腕については未知数の部分も多いが「だれがなっても変わらない」という一種の閉塞状態を打ち破る期待感があるのは確かだろう。

 三つ目は、透明性の確保と「市民主体」を明確にしていることである。行政の透明性を確保することは、市民が地方政治の主役になるための絶対必要条件だ。地方分権が中央と地方の関係を逆転させる"補完性の原理"に基づかねばならないのと同様に、分権時代の地方政治はこれまでの行政と市民の関係を逆転させる必要がある。

 明石の選挙では、新しい風を吹かせることができなかったものの、市民派の理念や政策と運動の手法は、新市長の市政運営方針にも少なからぬ影響を与えたと思いたい。なにより、初めて"自前の選挙戦"を担った多くの市民が、これまで遠い存在だった政治にかかわる喜びを手にしたことが大きな成果だ。住民・市民の成長とエネルギーの蓄積が、地方政治の地殻変動を引き起こすもとになる。

最終更新時間:2008年01月06日 21時51分17秒